【講座主旨】
持続可能な社会の実現に向けて,微生物を利用して様々な有用物質を生産する取り組みが注目されている。このようなバイオプロセスでは,原料の炭素源を細胞内の代謝の働きによって目的物質に変換させる。代謝は連続する多数の酵素反応からなるネットワーク
(代謝経路) をなしており,細胞は代謝の過程で増殖に必要なエネルギーや自身の構成成分を作りだす。多くの場合,元々の代謝経路では生産性が低いため,実用化には経路を改変する必要がある。標的の反応を触媒する酵素遺伝子を導入・破壊することで,経路を拡張・遮断することができる。例えば,目的物質の収率を増やすために副産物の合成経路を遮断する改変が行われるが,このような改変は代謝経路を見て直感的に不要な反応を特定することができる。しかし,代謝反応にはATP
やNADH などの補酵素が使われることが多く,これら補酵素は様々な経路に関与するため,経路全体の物質収支を考慮しながら,どのように改変すればよいのかを頭で考えて設計するのは大変である。今回は代謝経路の化学量論モデルを利用したシミュレーションによって,代謝の表現型を予測する方法を概説し,物質生産を目的とした代謝経路設計の応用例を紹介する。
【講座内容】
1.化学量論モデルを使った代謝シミュレーション
1.1 代謝フラックスと物質収支式
1.2 代謝フラックス解析の種類
1.3 ゲノムスケールモデル
1.4 フラックスバランス解析
2.シミュレーションに基づく代謝デザイン
2.1 増殖連動型の物質生産のための代謝デザイン
2.2 多重遺伝子破壊の効果を予測するためのアルゴリズム
3.代謝デザインに基づく育種
3.1 大腸菌による3 ヒドロキシプロピオン酸生産
3.2 藍藻によるエタノール生産
3.3 大腸菌によるコハク酸生産
4.展望
【質疑応答】
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