【講座の趣旨】
感性に訴える製品の開発においては最終的なユーザである人間の主観的体験を支える認知機構の理解が必須です.計算論的視覚科学の分野では,様々なモノのもつ多彩な質感・テクスチャやその美醜を知覚する脳情報処理に関する研究が大きく進展しています.本セミナーでは,映像のなかのどのような情報が心地よい質感や気持ち悪い質感を決めているのか,また脳がそうした情報をどのように処理しているか,を豊富なデモや錯視,実験の実例を交えて紹介します.それとともに,美醜や好みを人間の主観報告から客観的に計測・予測・制御するための手法の基礎を解説します.
【セミナープログラム】
1.質感と感性の脳情報学
1.1 脳の視聴覚情報処理
1.1.1. 脳の視覚情報処理の概要
1.1.2. 画像と色の符号化
1.1.3. 受容野と画像フィルタ
1.1.4. 画像特徴量に基づく認知と深層学習
1.1.5. 脳の聴覚情報処理:視覚との類似性
1.2 視覚と聴覚の質感
1.2.1. 質感とは何か
1.2.2. 材質知覚の研究から:
1.2.3. 視覚と聴覚の質感のモデル : 統計的特徴量の決定的役割
1.2.4. 深層モデルにおける統計的特徴量
1.2.5. 感性のチューリングテスト
1.3 良い質感と悪い質感−映像と音の快不快をもたらす脳の仕組み
1.3.1. 情動と感情の脳科学: 皮質下回路,扁桃体,前頭葉,ヘビ恐怖
1.3.2. 美醜への科学的アプローチ: 黄金率,色彩調和,構図
1.3.3. 映像と音の快不快を決める統計的特徴量:
心理実験,物体認知との関係,脳の反応
1.3.4. 自然界の規則性と美醜: 自然環境を分析する,単純接触効果
1.3.5. 計算論的神経美学: 脳情報処理モデルに基づく芸術論
2.質感と感性の計測・分析方法
2.1 心理実験の基礎
2.1.1. 主観を客観的に測るには: 脳の反応だけを測ることの無意味さ
2.1.2. 心理物理学の基本的な考え方: 刺激・システム・反応
2.1.3. 情報処理という枠組み:
独立変数,従属変数,課題,ブラックボックス
2.1.4. 素人の陥る罠: 強い結果と弱い結果,再現性,代表性,個人差
2.2 実験の実際と作法
2.2.1. 実験の準備: 装置,輝度と色度,音信号
2.2.2. 評定・マグニチュード推定
2.2.3. 比較判断: 反応率,一対比較,適応的比較行列
2.2.4. 脳活動計測1 : 視覚・聴覚誘発電位を測る
2.2.5. 脳活動計測2 :
脳波の解読,脳波からの知覚合成,心理データとの相関分析
2.3 画像・音声特徴量の分析・制御による質感・美醜の合成
2.3.1. 研究の進め方
2.3.2. 画像・音声の収集と評価実験
2.3.3. 特徴量の分析: 画像統計量,音響特徴量,深層特徴
2.3.4. 心理データと特徴量の関係分析:
相関,回帰,正準相関,機械学習と深層学習
2.3.5. 質感を操作する:
統計量の操作,テクスチャ合成,深層スタイル合成
2.3.6. 信頼してはいけない過去の研究について:
刺激の多様性と生態学的妥当性
【質疑応答】
※受講者の皆様の抱える疑問点や問題点について,セミナー開催3日前までに
「事前リクエスト用紙」 (請求書に同封)や 「Eメール」 を御寄せ頂けましたら,
講演中に対応させて頂きます。
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