【講演ポイント】
モルフォ蝶の青い輝きは、「生きた宝石」と呼ばれ、「生物の金属光沢」として著名である。その発色はしばしば「構造色の代表」と扱われるが、じつは物理学の観点では異常な発色である。それは、「干渉色なのに虹色でない」一種のミステリーである。その鍵は、鱗粉上の特異なナノ構造にあることを、我々は20年以上前に突き止めている。当初は純粋にその「謎解きと実証」で始まった研究は、その後、工学的にさまざまな利点が見いだされ(広角で明るく単色、無退色・省材料で低い環境負荷、など)、この10数年で多様な発展を遂げている。
一方、反射方向のみならず、この数年で透過方向にまったく異なる価値が見いだされ、従来なかった新しいタイプの光拡散板(光ディフューザ)が開発され始めた。一方向からの入射光を拡散し、明るく広角で一様かつ色変化のない光源を作る光ディフューザは、反射とはまた違った展開を見せ始めている。それら反射・透過の異なるアプローチを含めて、モルフォ発色の多様な展開について、今後の可能性も含めて紹介する。
同時に、ナノ構造を「作って・測って・予測する(設計)」すべてを実施する立場も参考になれば幸いである。加えて、「モルフォ蝶に学ぶ光特性」は、「構造色としては異端」だが「バイオミメティクスの中心」にあり、その縁で関わってきた国際標準化と国際動向についても一端を紹介する。
昨今深刻化する地球環境問題とのかかわりで、生物模倣の分野もこの10年ほどで大きく変貌しており、特に欧州の動向も含めて目が離せない状況にある。
【プログラム】
1.モルフォ発色の基礎 〜構造色からの位置づけ
1-1 モルフォ発色の謎
1-2 モルフォ発色の原理: 乱雑ナノ構造
1-3 モルフォ発色の実証
2.反射型モルフォ光材料
2-1 モルフォ発色を設計する(計算)
2-2 モルフォ発色を作る(作製)
2-3 モルフォ発色を評価する(測定)
2-4 発展と必要な技術
3.透過型モルフォ光材料 (光拡散板)
3-1 反射から透過への転用
3-2 新たな光拡散板(ディフューザ)
3-3 発展と可能性
4.異なる方向性と新たな展開
4-1 モルフォ素子の発展形
4-2 ディフューザの発展形
5.バイオミメティクス国際標準化と世界情勢
6-1 国際標準化 TC266
6-2 世界情勢
6-3 フランスの特異な取り組み
【質疑応答】
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