「月刊PHARMSTAGE」2024年10月号プレビュー
【特集】薬価・診療報酬改定をふまえた,これからの医薬品開発戦略

薬価戦略を落とし込んだ今後の創薬研究開発の進め方

長江 敏男 
Toshio NAGAE Pharma Business Consultant,ペプチドリーム社外取締役,岐阜薬科大学客員教授

1 はじめに 当論文の狙い

 筆者は2024/9月迄に,多くの治療分野で,新モダリティを含む100以上の創薬R & Dプロジェクトについて,薬価を含む事業化戦略/同価値定量評価,そしてGO/No-go 提案などを実行分担し続行中です。自他の成功と失敗,そして学会シンポジウム,セミナーにおけるQ & Aディスカッション等々を反映して,実践実務ノウハウの一部を私見として紹介します。業界には多くの通念がある。経験者でも当該経験をそのまま適応するとか,気づかず分かったつもりが損失になる事例は多々ある。後日,関係者は失敗に気づくが,そぅ〜っと闇から闇に消える事例は多い。Win-Win実現を目指して医薬ライセンスは活発に行われている。ところが開発が進むにつれて,夫々の要因から導出者が提訴したインターナショナル裁判となる事例は多い。提訴企業弁護団の依頼により,筆者は損害賠償請求の可否理由,同損害額を算定して,専門家意見調書Expert Reportsを欧米Asia-Pacificの当該裁判所に提出した。薬価に関する「通念 が痛念にならないよう」に後述しよう。但しインサイダー情報は非開示です。
 ほとんどの事例では,創薬研究から臨床開発,薬事申請承認,希望薬価申請承認,市販への流れは図1が示すように左から右へと進める。但し将来市販後の製品像TPPを実現するには,R&D段階で何をすべきか?図1は逆算思考が重要なことを示唆している。

図1 Nature Reviews Drug Discovery “ Improve R&D Activity” authored by S. Paul in 2010に基づき長江が一部追加改変


2 限られたデータと仮説に基づくTPP,シーズ思考Xニーズ思考     

 創薬R & Dの例えば,Non-clinicalの段階で,限られたデータと仮説に基づき,開発候補プロジェクトの市販後製品像 TPP(Target Product Profile)を策定する。その後,データを追加できる段階でその都度,TPPをUpdateしている。筆者らプロジェクトチームメンバーの TPP(AMEDのTPPとは異なる)は図2が示すように,患者視点の製品コンセプト,適応症/効能効果,治療における位置付け,薬理作用,用法容量,臨床効果,安全性などから成る。先に創薬研究シーズ思考から TPP 原案を策定してもらう。次はアンメット医療ニーズ思考からインタラクティブなディスカッションを行う。お互いにリスペクトしてBrainstorming突っ込みQ & Aを展開するのは美徳で,イノベーション実現には欠かせない。アンメット医療ニーズ応答などを反映し,Ambitious, Achievable, Approval(3A)視点から,Standard標準シナリオ,Upside上方シナリオ,Downside下方シナリオを用意している。Upsideは最善シナリオ,Downsideは最悪シナリオと定義するケースも多い。



3 戦略的に成功確率を上げて臨床開発成功,医療ニーズ応答へ  
     

 ここでは効く薬が無くて,困っている患者さんに喜ばれる,アンメット医療ニーズ応答を実現するProduct-Xの臨床開発戦略代替案を事例としよう。承認される適応症/効能効果はいろいろある。例えば,(1)重症度などを特定せず広範囲の患者を対象に承認を目指すケース,(2)他剤無効例2nd-lineに限定するケース,(3)Product-X投与前に奏功するか否かをバイオマーカーで事前判定し投与患者を限定するケース,(4)その他ケースがある。筆者はTPP策定前後にバイオマーカー探索を研究者に度々提案している。図2が示すように,治験にエントリーする患者の選定基準,除外基準としてプロトコールに組み込むことが出来るからだ。効かない患者さんに投与して医療費無駄と月日時間無駄を節減できる。勤倹永久に勤しむのは日本が元々得意とするところだ。その対価として妥当な高薬価を希望申請することが出来る。筆者らは現行の薬価制度,算定方式はイノベーション振興を支えていると実感している。R & D事業化戦略メンバーがお互いに切磋琢磨,インタラクションし,戦略的に成功確率を上げて,リスクテイクすると,ほぼ成功したことを経験している。あくなき探求心で探索に立ち向かう研究者開発の方々に対して私は日ごろからリスペクトしています。

4 R&D段階で次のMilestone移行前に,GO/No-go意思決定基準を決める  

 R & Dはマイルストーンの連続で,予期した好ましい結果が出れば前進先進また前進と進める。例えばMilestone-0, 1, 2, 3 - - - とすると,次のマイルストーンに入る前に,当該マイルストーン結果に基づき,GO/No-go見極め見切り意思決定基準を事前に仮決めしておく。そうすれば,当該研究者,臨床開発メンバーは,その先へ進められるように戦略的に成功確率を上げ成功へと勤しむことが出来る(図3)ところが当該マイルストーンで成功したのに,その段階になって妥当な高薬価はムリなどの理由から,当該プロジェクトを没にする事例がままあった。それでは研究者らは報われないどころか企業にとって貴重なリソースの損失,国富の損失にもつながる。日本は元々人材育成を得意としていた。R & D事業化戦略の実践実務をやりながら,薬価を含む事業価値評価GO/No-go提案する人財育成がより重要だ。



図3


5 同一製品の適応拡大 vs. 別もの製品シナリオ,LCM思考
6 TPPに基づく薬価戦略,薬価算定方法の分かれ目は何か?
7 類似薬効比較方式と原価方式で算定された事例紹介
8 薬価についてよくある通念は痛念,事業価値評価とGO/No-go
9 まとめ

◆続きは「月刊PHARMSTAGE」2024年10月号 本誌でご覧ください◆

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https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine_pharm%20stage.htm

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