「月刊PHARMSTAGE」2024年12月号プレビュー

【特集】 再生医療等製品のこれからの開発・事業戦略

再生医療等製品の開発初期の事業化戦略における留意点

(Considerations in the early-stage commercialization strategies for Regenerative Medical Products in Japan)

井家 益和      (株)ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC) 執行役員

Masukazu INOIE  Japan Tissue Engineering Co., Ltd. Corporate officer

1.はじめに

 再生医療等製品は,旧薬事法から「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)への改正において,医薬品,医薬部外品,化粧品,医療機器に加えて,新たな区分として新設された1)。この改正は,再生医療製品と遺伝子治療薬を合わせて定義された再生医療等製品の特性を踏まえた規制を構築することにより,薬事審査を迅速化する意図があった。われわれはその当時,旧薬事法において医療機器として承認された自家培養表皮「ジェイス」と自家培養軟骨「ジャック」の2品目を上市していたが2,3),薬機法の施行と同時に再生医療等製品に読み替えられた4)。再生医療等製品の承認数は2023年6月には20品目にまで達した5)。しかし,条件及び期限付承認制度で承認された自家骨格筋由来細胞シート「ハートシート」及びHGF遺伝子治療用製品「コラテジェン筋注用4mg」が,本承認を得るべく実施した製造販売後臨床試験で期待される有効性が得られなかったことから,2024年にそれぞれ承認整理及び承認失効となった。その後,新たに同種間葉系幹細胞「アクーゴ脳内移植用注」が承認され,2024年11月時点で,承認された再生医療等製品は19品目である。
 再生医療等製品の開発手法は医薬品や医療機器と大きく異なることから,PMDAは再生医療等製品を開発するための技術的ガイダンスを2016年に公開した6)。製品開発の手順は基本的にそのガイダンスに従えばよいが,PMDAは製品特性によってケースバイケースで判断することも明言している。再生医療等製品の薬事承認を得るには,合理的な製品仕様を設計し,矛盾のない適切な品質設計を行い,非臨床試験や臨床試験に至るまで効率的な事業化戦略を立てる必要がある。
 「ジェイス」と「ジャック」はすでに再審査を完了し,10年以上製造販売を継続している。われわれはさらに,自家培養角膜上皮「ネピック」, 自家培養口腔粘膜上皮「オキュラル」及びメラノサイト含有自家培養表皮「ジャスミン」を製品化し,合わせて5品目を上市した。本稿では,これらの開発経験に基づき,再生医療等製品の開発初期の事業化戦略における留意点について解説する。


2.製品の事業性

 再生医療等製品の開発には具体的な事業計画が必要であるが,事業性が適正に評価されないままに開発が進むことも少なくない。
 医薬品の開発の場合,事業性が見込める疾患に対して画期的なmode of action(MOA)を設定して候補品を探索する手法が一般的である。一方,再生医療等製品の場合は開発品の設計が先行し,細胞が持つ多様で複数なMOAに対して有効な対象疾患が選定される傾向がある。また,医薬品のように企業の研究室から製品開発が始まることはなく,アカデミアなどの医療機関が開発した再生医療技術が企業に技術移管されて製品化されるケースがほとんどである。医療機関でfirst in humanまで進んでいれば企業導入の動機となることから,薬機法と同時に制定された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(安確法)によって医療機関が行う臨床応用の手順が明確化されたことも再生医療等製品の開発に寄与している7)。しかし,医療機関が再生医療を手掛ける動機は,開発者の専門領域において既存治療が十分に奏功しない疾患に対する新たな医療技術の位置づけであるため,製品の事業性はそれほど考慮されない。既存治療が奏功しない対象とは再発・難治性疾患や希少疾患であり,そもそも大きな市場が見込めない領域である。癌領域が例外であり,海外の製薬企業が挙ってCAR-T製剤を開発した理由でもある。
 企業が単独で再生医療等製品を開発できないのは,技術シーズが医療機関にあることや,開発過程で必要なヒト組織・細胞を医療機関から調達する必要があることが理由であり,企業と医療機関との連携は欠かせない。企業が再生医療等製品を開発する動機は,既存の事業領域におけるラインナップの拡充,事業領域の拡大,再生医療参入のアピールなどである。医療機関の開発者がアカデミア発ベンチャーを設立していることも多いが,わが国では米国のスタートアップのように莫大な資金調達が期待できないことから,基礎研究や臨床研究は小規模なものである。非臨床試験や治験を完遂するには,企業との協業や導出が必須であり,開発者と企業とのマッチングが鍵となる。
 一方,企業目線で見ると,医療機関主体で開発が進んだ製品は,対象疾患や製品仕様を変更しにくいという懸念がある。再生医療等製品の高額な保険価格に対して,適応対象が制限される傾向があるため,開発当初の対象疾患から変更せざるを得ないことも少なくない。多少の市場性を犠牲にしても,薬事承認を優先して適応対象を限定・変更する戦略も選択肢となる。再生医療等製品は細胞が持つMOAに対して複数の対象疾患が想定できるため,適応拡大を前提とした事業計画を立てることも難しくない。
 再生医療等製品の事業性は安定製造が大前提であり,製造コストが大きな比重を占める。開発者の思い入れから,最初に設計した製品仕様の変更に難色を示される場合もあるが,製造工程の標準化にあたり培養工程の簡略化や期間短縮を目指すことは安定製造に資する。また,ありがちな複合的MOAの主張は,品質管理項目が複雑になり,品質設計がPMDAの理解を得にくいことから,primary mode of action(PMOA)を明確に掲げることが肝要である。再生医療等製品にも製品寿命があり,技術の陳腐化による新製品への置き換えは避けられないが, 技術の進歩に即した製法変更を繰り返したとしても,PMOAを軸とした同等性評価が容易であり,長期的な事業展開が期待できる。
 以上のように,再生医療等製品の事業化には,開発初期から医療機関と密接に連携し,製品のPMOAを明確にするとともに薬事承認を目指す対象疾患を厳選して,適応拡大を含む長期計画まで描くことが重要である。


3.製品仕様の策定

 国内で承認されている再生医療等製品は,移植用組織,間葉系幹細胞/体性細胞,CAR-T細胞,及び遺伝子治療薬に分類される。剤形は,組織構造体,細胞懸濁液及び溶液の3種類である。溶液は遺伝子治療薬のみが該当する。再生医療等製品は,有効性に用量依存があれば医薬品に類似して,用量依存がなければ医療機器に類似して開発される。再生医療等製品には考慮すべき多くの仕様があるが(表1),特に重要な項目について解説する。


参考文献

1)薬事法等の一部を改正する法律;平成25年11月27日 法律第84号(2013)
2)井家益和:自家培養表皮ジェイスRを用いた熱傷治療,創傷,5 (3),118-123(2014)
3)菅原桂:培養軟骨による軟骨欠損治療の最近の進歩,人工臓器,42 (3),198-200(2013)
4)再生医療等製品の業許可又は承認を受けたものとみなされるものについて;平成26年11月5日 薬食機参発1105第1号
5)井家益和:J-TECが挑戦する再生医療の産業化,日薬理誌,159 (3), 138-143(2024)
6)再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質,非臨床試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンス;平成28年6月14日 医薬品医療機器総合機構理事長報告 薬機発第0614043号(2016)
7)再生医療等の安全性の確保等に関する法律;平成25年11月27日 法律第85号(2013)

◆続きは「月刊PHARMSTAGE」2024年12月号 本誌でご覧ください◆

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 『再生医療等製品のこれからの開発・事業戦略』
  https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine/p_2024_12_H01.htm

 『再生医療等製品における事業性評価の進め方と注意点』
  https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine/p_2024_12_H03.htm

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