1.はじめに
2014年に 「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)が施行され,再生医療等製品についての規定が含まれることとなり10年が過ぎました。その間,薬機法施行前に果敢に取り組んだ2製品を加え21製品(細胞治療製品17品目,遺伝子治療製品4品目)が承認されています。また,いち早く導入された日本における再生医療等製品の実用化に対応した承認制度(条件及び期限付き承認)が5製品(アクーゴを含む)に適応され,「条件及び期限付き」製造販売承認となっています。
再生医療等製品には,細胞治療製品と遺伝子治療製品が含まれ,これまでの医薬品のモダリティでは克服できなかった疾患を治療できる可能性を秘めています。しかしながら,細胞治療製品,遺伝子治療製品それぞれに新たなアプローチが含まれるようになってきており,同じ目線で議論するのが難しくなってきているのも事実です。ただ,共通して再生医療等製品では,これまでの医薬品とは大きく異なった製造方法や保管,配送が必要であり,事業性評価では注意する必要があります。薬を創る企業としては,採算性が取れることも重要であり,赤字であれば供給を続けることは困難となります。筆者の過去の経験(他家由来細胞加工製品)を中心に少しでも再生医療等製品の開発促進の参考となると幸いです。
そして,事業性の観点で考えさせられる事象が起きていますので合わせて議論していきたいと思います。
2.再生医療等製品とは?
さて,再生医療等製品とはなんでしょうか?
薬機法の中では再生医療等製品については図1上図のように定められています。取り出した細胞に加工を施すことが必須となっています。従って,臓器移植等はこの法律のスコープからは外れています。その一方で,個人的には,「動物薬も範疇なんだぁ」というのが第一印象でした。
では,その中にどのようなものが含まれるのか,分類されるのかについては,AMEDの委託によるアーサー
D. リトルの資料1)に上手くまとめられています。しかしながら,近年,様々な新規技術,アイデア,例えば,遺伝子編集,TCR-T,エクソソーム,オルガノイド等々新たなアプローチが行われてきています。再生医療等製品と十把一絡の議論は難しくなってきています。図1下図では,アーサー
D. リトルの資料に新しい技術を補足しています。
図1
3.再生医療等製品の今年のエポックメイキングな出来事について
今年(2024年)には,「条件及び期限付き製造販売承認」が与えられた2製品について市販後臨床が報告され,2製品とも市場から撤退しています。遺伝子治療製品のコラテジェンは承認取り下げ,販売終了2)(市販後臨床の結果評価については公表されていません。),また,細胞治療製品であるハートシートは「厚生労働省
薬事審議会(再生医療等製品・生物由来技術部会)での審議の結果,承認することは適切ではないと判断された」とのことで販売を中止しました3)。このことは「条件及び期限付き製造販売承認」制度が機能したと考えるべきなのでしょう。
また,細胞治療製品であるアクーゴ®については,「条件及び期限付き製造販売承認」取得したもののその出荷には「今回の承認に伴う出荷に関する条件を達成するため,当社は今後速やかに2回程度の市販品製造を行います。」と異例の条件が付いています4)。
4.事業性評価の重要性
4.1 事業性評価に用いられる方法
事業性評価には,投資により生み出されたフリーキャッシュフローを現在価値に割り戻したNet
Present Value(NPV)を用いた投資判断・経済価値の測定法を用いることが多いのではないでしょうか。NPVを用いると,すべての案件をキャッシュフローという共通の軸で測定・評価できるメリットがあります。
また,割引率に,その企業が平均的にどのくらいのコストで資金を調達しているのか,Weighted
Average Cost of Capital(WACC),を考慮したハードルレートを用いれば,時間の概念・リスクの概念を加味した評価も可能となります。勿論,さらにデシジョンツリー分析,モンテカルロ法,そしてリアルオプション法など,柔軟性やリスクを含んだ手法などもありますが,各企業で用いられている手法を用いることとなります。単純に言えば,NPVの値がマイナスになるようだと,そのプロジェクトはやらないとの判断になります。
事業性評価には,そのプロジェクトに必要なコストと将来の売上を見積もって計算することになります。再生医療等製品においては,他のモダリティとは少し異なった注意点があります。以下,その見積もりで注意すべき点に触れていきます。
4.2 事業性評価で考慮されるパラメーター
(1)コスト
再生医療等製品であっても通常の事業性評価に用いるパラメーターと何ら異なるところはないのですが,特に細胞加工製品の場合には,@
細胞は生きている,A 除菌,殺菌ができない,B 出発原料である細胞(組織)の品質はバラバラと言う点を認識しておく必要があります。細胞が生きていると言うことは細胞が死んでいくとも言いかえることができます。このような特性があるなかで,製造面についてはよく考えていく必要があります。また,市販後にも全例調査も要求されますので営業
・ PMSで発生する費用を考慮しないとなりませんし,希少疾患を対象とする場合には希少疾患故に注意を払うべき費用もあります5)。そして,開発候補品を導入するならばその導入に伴う一時金やロイヤルティーも必要となります。
以下に,再生医療等製品で注意を払う点を述べてみます。
参考文献
1)2019 年度 再生医療・遺伝子治療の市場調査業務(2020年03月)改変
2)アンジェス社プレスリリース 2024年6月24日「HGF 遺伝子治療用製品「コラテジェン」
の開発販売戦略の変更に関するお知らせ」
3)テルモ社プレスリリース 2024年7月20日「厚生労働省 薬事審議会における「ハートシート」の審議結果について」
4)サンバイオ社プレスリリース2024年6月24日「アクーゴ®脳内移植用注」に関する一部報道について(続報)」
5)「希少疾病用医薬品候補品の開発早期での事業性評価」 PHARM STAGE 14-19
Vol. 23 No. 4 2023
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