「月刊PHARMSTAGE」2024年12月号プレビュー

【特集】 再生医療等製品のこれからの開発・事業戦略

再生医療等製品のこれからの開発・事業戦略

(Product Concept Development and Development Strategies for Regenerative Medicine Products)

鈴木 聡  合同会社鈴木聡薬業事務所 代表社員 Ph.D., MBA

1.はじめに

 再生医療等製品は,生きた細胞や遺伝子を用いて革新的な治療法を提供するものである。例えば,幹細胞を用いた組織再生や遺伝子治療による遺伝性疾患の治療が挙げられる。これにより,難病治療や損傷した組織の再生が可能となり,患者の生活の質が大幅に向上することが期待される。
 しかし,その製品開発・事業化には多くの技術的課題
が存在する。例えば細胞加工製品においては,使用する細胞の確保や製造工程での品質管理が重要であり,均質性と安定性,無菌性等を確保する必要がある。遺伝子治療用製品については,ウイルスベクターの抗原性や不完全体の混在などが課題であり,製品の純度を高め,安全性と有効性を改善することが求められる。すなわち,これらは医薬品とは異なる法規制や製造技術が要求されるため,これらを熟知し,製品ごとの戦略的な品質管理と事業計画を立てることが重要である。 本レポートでは,再生医療等製品の事業構築に必要な製品コンセプトと製造・開発戦略について,最新の研究動向や事例をもとに説明する。


2.再生医療等製品の定義と法体系

 日本における再生医療は,医師の医療行為に関する再生医療安全確保法(安確法)1)と,再生医療等製品が定義されている医薬品医療機器等法(薬機法)2)によって規制されている。製品の開発者や製造者は,これらの規制を遵守し,適切な品質管理と臨床試験を実施することで,製品の市場投入を目指すことができる。
 なお,現在,日本で承認されている再生医療等製品は,国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)の再生・細胞医療製品部3),(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページ4)にて詳しく説明されているので参照されたい。

2.1 再生医療等製品の事例

 再生医療等製品は,その種類や用途に応じて多岐にわたる5)。開発中のものも含め,具体的には以下のような製品が含まれる(表1):

@ ヒト体細胞加工製品:患者自身の細胞やドナーから採取した細胞を細胞加工施設(Cell Processing Centore,CPC)にて培養・加工し,治療に用いる製品である。例えば,線維芽細胞や間葉系幹細胞(MesenchymalStem Cells, MSCs)を用いた組織再生や,免疫細胞を用いたがん治療が挙げられる。さらに,患者自身の細胞をCPC にて加工し,患者に戻す「自家」と,健康なドナーから提供された細胞をあらかじめCPC にて加工して品質規格を定めて必要時に患者に使用する「他家」に大別される。CAR-T 療法に関しては,ヒト体細胞加工製品に区分されるが,ex vivo 遺伝子治療として説明される場合もある。
  どの細胞を原料として選択するかは商品コンセプトを確立するうえで極めて重要である。iPS 細胞は体細胞に数種の遺伝子(山中因子)を導入して作成した細胞であり,分化制御が課題である。また,体性幹細胞については,骨髄や脂肪細胞由来が使用されているが,骨髄バンクと同様,若年層のドナー確保や細胞特性を保つうえでの継代培養の回数に限界があることなどが課題である。なお,我が国での細胞資源の確保においては帝王切開時の胎盤に含まれる幼年期の幹細胞を利用する試みがあること6),また,体性幹細胞でも乳児歯髄由来幹細胞は神経系への分化能に優れている7)などの特徴がある。



A 遺伝子治療用製品:疾患の原因となる遺伝子の欠損や異常を修正するために,治療に必要な人工遺伝子を患者に投与する治療法である。これには,ウイルスベクターを用いて人工遺伝子を患者由来の細胞に導入してからその細胞を患者に投与する方法(ex vivo)と,人工遺伝子を直接患者に投与する方法(in vivo)に大別される。
B 研究開発中の再生医療等製品:現在,研究開発中の製品には,iPS細胞を用いた細胞シート,オルガノイド,ゲノム編集を応用したデザイン細胞などが挙げられる。CAR-Tは患者自身のT細胞を利用するが,高齢や抗がん剤投与によるダメージから使用できない例もあるため,遺伝子改変した他家T細胞を原料に使用する試み(他家CAR-T療法)も開発されつつある8)。なお,幹細胞の培養上清に含まれるエクソソームを治療に利用する試みもあるが,この法的カテゴリーについてはまだ明確になっていない9)。また,遺伝子治療に使用されるアデノ随伴ウイルス性ベクター(AAV)は抗原性を高率に発生すること,知財の問題などの理由から,国内では代替ベクターを開発する動きがある。


3.商品コンセプトの構築

 再生医療等製品は,従来の医薬品とは異なる特性および薬理作用を発現し,新規のコンセプトを構築できる可能性がある。とはいえ,期待できる「再生」の範囲には限界もある。そのメリットとデメリットにつながる製品特性を十分に評価し,「身の丈に合った製品コンセプト」に仕上げる必要がある。そのためには,医療ニーズ,技術的可能性,法規制の面からの評価と具体化が必要である。

3.1 医療ニーズ

@ ターゲット市場の特定と,患者や医療機関の治療ニーズを詳細に調査し,製品が使用される際の事業シミュレーションを行う。
A 現行の治療法や競合製品の分析を行い,治療上の位置づけや他社品との差別化ポイントを明確にする。
 現在,「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」10)に基づいた様々な臨床研究が行われている。(表2)。ただし,再生医療等製品の薬価は相応に高額であるため,その治療効果や投与回数などが患者の経済的負担軽減やQOL向上に結びつく必要がある。


3.2 技術的可能性

 最近では大学や研究所などで多くの新しい技術が開発され,新規な細胞・遺伝子治療製品候補が次々と創出されている(表3)。ただし,これらの事業化を進める場合,GCTP省令11)適合下の製造業者に技術移転を行う必要がある。再生医療等製品においては,製造ロット間の不均一性や異物混入,原料入手困難による安定供給などの製造における課題により,製造承認や条件付き承認段階での中断や撤退を余儀なくされた事例もあるため,注意を要するところである。
 製造においては,患者やドナーからの原料入手方法ならびに製造における生物由来原料基準12),遺伝子組み換え製品の場合はカルタヘナ法13)の対策などに注意を払い,治験あるいは承認申請に向けた製品の製造工程と品質規格を確立する。また,再生医療等製品候補の機能性を代表する生物活性を選定し,この簡易アッセイ系を構築して,Potency Assayとすることが製品間の均一性を評価するうえでも重要である。特に間葉系幹細胞ではFGF2などのバラクライン分子やエクソソームをPotency Assayに応用する試みもある。

3.3 法規制

 @ 再生医療等製品に関連する国内外の法規制を理解し,遵守するための戦略を立てる。
 A 承認申請のプロセスを把握し,承認申請資料に必要なデータを収集する。特に,国際共同治験や国外での承認販売を目指す際には前もって各国の規制状況を調査・把握の上,準備を図っておくことが必要である。
 再生医療は,低分子医薬品やバイオ医薬品と異なり,生きた細胞や遺伝子を用いるため,ドナーからの原料入手,その製造・品質管理・安全性評価において各国特有の倫理・法的課題が存在する。再生医療に対する法規や基準は各国により異なるが,再生医療に関する技術や製品が世界的に広がるに従い,関係法規の国際化と製造技術の標準化の流れにある(表4)。こうした国際標準化を事業計画に取り入れ,製品開発を進めることは,再生医療製品の国際的な品質と安全性を確保し,製品の国際市場への早期投入と競争力確保のために不可欠である。



参考文献

1)再生医療等の安全性の確保等に関する法律,Available at:
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC0000000085 (Accessed: 4 October 2024)
2)医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律,Available at: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000145 (Accessed: 4 October 2024)
3)国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部,Available at:
https://www.nihs.go.jp/cbtp/home/index.html (Accessed: 4 October 2024)
4)厚生労働省ホームページ「再生医療について」,Available at: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html (Accessed: 4 October 2024)
5)内閣府,商務・サービスグループ 生物化学産業課 (2023) 再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業中間評価/終了時評価 補足説明資料, Available at: https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/hyoka_wg/pdf/066_h01_00.pdf (Accessed: 4 October 2024)
6)AMED (2017) ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功−生殖医療・再生医療への貢献が期待,Available at: https://www.amed.go.jp/news/release_20171215.html (Accessed: 4 October 2024)
7)中村洋 (2010) 歯髄由来の間葉系幹細胞による組織再生, 日歯内療誌, 31, pp. 155-163,Available at: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jeajournal/31/3/31_155/_pdf (Accessed: 4 October 2024)
8)大塚製薬 (2021) iPS細胞由来他家CAR-T/TCR-T遺伝子細胞治療製剤の作製技術を導入,Available at: https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/assets/pdf/20211216_1_01.pdf (Accessed: 4 October 2024)
9)日本再生医療学会,エクソソームなどの調整・治療に関する考え方
10)厚生労働省 (2017) 『ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針, Available at: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000150646.pdf (Accessed: 14 October 2024)
11)再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令,Available at: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426M60000100093 (Accessed: 4 October 2024)
12)生物原料基,Available at: https://www.pmda.go.jp/files/000223393.pdf (Accessed: 4 October 2024)
13)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) カルタヘナ法に対する申請,Available at: https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/cartagena-act/0003.html (Accessed: 4 October 2024)

◆続きは「月刊PHARMSTAGE」2024年12月号 本誌でご覧ください◆

 月刊PHARMSTAGEのホームページはこちら
 
https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine_pharm%20stage.htm

 

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 『再生医療等製品の開発初期の事業化戦略における留意点』
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