「月刊PHARMSTAGE」2025年1月号プレビュー

【特集】 〜今,GMP・CMC担当者が知っておきたい最新知識〜
     PMDA,海外当局のGMP査察動向とその対策

海外当局によるGMP査察事例

西手 夕香里  シミックファーマサイエンス(株) 信頼性保証本部

1.はじめに

 今回の執筆にあたり目を通した前回執筆時(2022年前半)の記事には,コロナ禍でのFDA査察の中止又は延期(ミッションクリティカルなケースを除く),ベンダー監査やQA監査のハイブリッド又は完全リモート化についての言及があり,2024年後半の現在の状況と大きく異なる。当時は二回のワクチン接種に加え,米国出国前と日本到着時,日本出国前にPCR検査を行っていた。リモート査察の選択肢は無いようだったが,2022年前半には新型コロナワクチンの三回目の追加接種が進み,オミクロン株の流行で停滞していたFDA査察官の来日も再開しつつあった。それに伴い,準備のためのグローバル監査や模擬査察も増え,2022年後半は慌ただしくなるだろうと予想したが,本当にその通りになった。2022年後半に向けてGMP英語に関する講演や執筆の依頼が増え,前々回の記事(2018年12月)を見直し,過去数年間の海外当局査察で頻出する英語表現(キーワード)とリモート監査のベストプラクティスを整理してまとめたのが2022年7月号のPharmstageである。今回は,前回整理したトレンドに過去2年間の新トレンドを加え,海外当局によるGMP査察事例としてまとめた。皆様の査察への備えの一助となれば幸いである。


2.過去2年間の新トレンド

 FDAは2020年7月からミッションクリティカルな(必要性の高い)ケースに限り,製造施設に対する実地査察を再開した。当初はパンデミックによるlong queue(査察遅延の増加)解消のため,PAI(承認前査察)やFor cause inspection(原因究明のための追加・特別査察))が優先されたが,Routine inspection(定期査察)も再開された。査察が本格的に再開した2022年後半から現在までの2年間に私が気づいた新トレンドを以下に列挙する。

1) Equipment PM (preventive maintenance) & Calibration(設備の予防保全と校正)
System and components inventory(設備・構成部品リスト)を作成し,リスクに応じて保守の頻度を定める。proactive(故障する前)に部品を交換して,long lead items(発注から納品までのリードタイムが長い部品)のストックを持つ。

2) EMPQ (Environmental Monitoring Performance Qualification)
Execution of an appropriately designed EMPQ will inform the routine EM program such that it is robust and representative. (適切にデザインされたEMPQにより,routine EM program(定期環境モニタリングプログラム)の頑健性と代表性が担保される。)→EMPQで検証した微生物及び微粒子のモニタリングポイントの中から,リスク評価に基づいてroutine EM programのモニタリングポイントを選定する。

3) Plate reading(コロニーの観察による微生物カテゴリーの識別)
Incubation(培養)後のプレートを観察する分析担当者は,細菌とカビの簡易的な識別方法について,写真などで十分なトレーニングを受ける必要がある。

4) Quality oversight(品質部門(QA)によるオーバーサイト(監視,管理,監督)
たとえば逸脱発生時の原因調査において,発生部門とQAが協力してroot cause analysis(根本原因分析)やhistorical search(過去の類似事象の検索)を行う。Fish bone chart(特性要因図),5 whys(なぜなぜ分析)などのツールを適宜用いて,assumption(思い込み)ではない,データや科学的根拠に基づく真の原因を特定する。特定したroot cause(根本原因)またはprobable cause(可能性の高い根本原因)に対するCAPAを実施し,effectiveness check(有効性評価)を行う。このようなQAオーバーサイトにより,不十分な原因調査による再発を防ぎ,similar process/equipmentへの水平展開を行う。


3.Hot topics

 以下はFDAがFY2017-FY2022に発行したForm 483のトップ5だが,私が本格的に査察の通訳を始めた2010年頃からあまり変わっていないように思う。
・#1 21 CFR 211.22(d)-Quality control unit procedures
(written and followed)
(品質部門の手順:文書化と遵守)
・#2 21 CFR 211.192-Investigations of discrepancies
(不一致の原因調査:製造記録の照査)
・#3 21 CFR 211.160(b)-Lab controls (should include
scientifically sound specifications)
(ラボ管理の要件:科学的根拠のある規格)
・#4 21 CFR 211.100(a)-Written procedures for
Production and Process Controls
(製造およびプロセス管理手順書)
・#5 21 CFR 211.25(a)-Personnel qualifications
(education, training, and experience)
(資格認定:教育,訓練,経験)
 それぞれの項目について,実際に発出されたWarning Letter等を例に,最近のトレンドをキーワードと共に解説していきたい。

3.1
Your firm failed to establish adequate written responsibilities and procedures applicable to the quality control unit and to follow such written procedures (21 CFR 211.22(d)).
(和訳)品質部門に適用される責任と手順が文書化されていない。また,文書化された手順に従っていない。
例) QU failed to ensure every drug product batch is released only when satisfactory product quality testing is completed.→品質部門が出荷試験完了前に出荷判定を行った。
Drug productは製剤(原薬はdrug substance), product quality testingは製品の出荷試験である。Batch releaseは出荷判定の意味であるから,「品質部門は,毎ロット出荷試験が判定基準を満たして完了した場合のみ製品の出荷判定を行うという保証を怠った」という指摘になる。以下に具体例が続く。
1) You released antimicrobial hand soaps and hand sanitizers for distribution before reviewing and approving microbiology test results.
(微生物試験の結果を照査・承認せずに抗菌ハンドソープと手指消毒剤を出荷した。)
2) Your QU did not perform its basic responsibility of ensuring that drug products possessed their required quality attributes at the time of release and distribution.
(品質部門が,製剤の出荷・配送時に必要な品質特性を有していることを保証する基本任務を怠った。)
3) You also did not initiate investigations into out-of-specification (OOS) test results “in a timely manner,” as required by your procedure.
(OOSの試験結果の調査も,手順の定め通り「迅速に」開始しなかった。)

3.2
Your firm failed to thoroughly investigate any unexplained discrepancy or failure of a batch or any of its components to meet any of its specifications, whether or not the batch has already been distributed (21 CFR 211.192).
(和訳)バッチまたは成分の原因不明の不一致および規格への不適合は,当該バッチが出荷されているか否かに関わらず原因を十分調査すべきだが,できていない。
例1) You did not adequately investigate significant particulate defects in your sterile drug product, including recurring incidents of extrinsic particle contamination.
(外因性の微粒子汚染の再発事象を含む,無菌医薬品の中の重大な微粒子の不具合を適切に調査しなかった。)
例2) The FDA considers the firm's OOS investigations as inadequate for the following reasons:
(以下の理由でOOSの原因調査が不十分)
l the investigations were not performed in a timely manner(原因調査のタイミングが遅れた)
l root causes were not appropriately identified(真の原因が特定されていない)
l the investigations were not expanded to all potentially affected batches(影響を受けた可能性があるすべてのロットを確認していない)
l corrective action and preventive action (CAPA) was not implemented(CAPAが実施されていない)
l the CAPA effectiveness was not evaluated(CAPAの有効性評価が実施されていない)


 ◆続きは「月刊PHARMSTAGE」2025年1月号 本誌でご覧ください◆

  月刊PHARMSTAGEのホームページはこちら
  
https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine_pharm%20stage.htm



参考文献

1)https://ispe.org/initiatives/regulatory-resources/gmp/audit-checklist
(GMP Audit Checklist For Drug Manufacturers)
2)日本製薬工業協会GMP委員会,GMP関連用語集,増補改訂版,1034ページ(平成11年3月)
3)榊原敏之,図解で学ぶGMP,じほう(平成26年),第4版,347ページ

 

◆この記事の関連記事プレビューはこちら◆

 『PMDAによる医薬品の品質確保に向けた取り組み』
  https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine/p_2025_01_H04.htm

海外 FDA GMP 査察 指摘 事項 事例  専門誌


 

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