「月刊PHARMSTAGE」2025年4月号プレビュー

特集 「〜今,GMP・CMC担当者が知っておきたい最新知識〜
      ICH Q12の要件と製品ライフサイクル管理の現状・今後」

ライフサイクル管理における承認後変更管理(PACMP)とその進め方

高平 正行  エイドファーマ 代表

1.はじめに

 ICH Q8, Q9, Q10, Q11及びQ12ガイドラインでは,「科学及びリスクに基づく医薬品開発並びにリスクに基づく規制当局の判断の機会が提供されている。」1) これらのガイドラインは,製品ライフサイクルを通して化学,製造及び品質管理(Chemistry, Manufacturing and controls, 以下 CMC)の変更に関する評価を行う上で有用である。
 ICH Q8及び Q11ガイドラインは,主に製品ライフサイクルの初期段階(すなわち製品開発,製造販売承認申請及びを対象としている。ICH ガイドラインの最近の実施経験から,ICH Q8 (R2)及びQ10付属書 1に記述されている CMCに関する承認後変更に対する,より柔軟な規制のアプローチが完全には実現されていない技術と規制との間のギャップが明らかになってきた。本稿では,ライフサイクル管理における承認後変更管理(PACMP)とその進め方を中心に概説したい1-7)。
 ICH Q12 「医薬品のライフサイクルマネジメントガイドライン」の取扱う主な内容としては以下である。
 ●  CMCに関する承認後変更:製販と規制当局のリスクコミュニケーション
 ●  エスタブリッシュトコンディション(EC):製品品質を確保するために必要な事項や,変更に際して薬事手続きが必要な事項
 ●  承認後変更管理実施計画書(PACMP):製販と規制当局の事前合意による変更手続きのためのツール である。
 ●  製品ライフサイクルマネジメント(PLCM):承認後のCMCに関連したコミットメント,PACMP,商業段階でのマネジメントを記載
 ● 医薬品品質システム (PQS) 及び変更マネジメント
 ● 規制当局による審査と調査の連携
 ●  市販製品の承認後変更:分析法や安定性試験に関わる変更を促進するアプローチ
 本稿では,ICH Q12の中でも重要なコンセプトであるEC及びPACMPに焦点を当て,変更事例や運用面も併せて概説する。


2.ICH Q12における規制のツールと達成のための手法

 エスタブリッシュトコンディション(EC):
 承認申請に際してのコモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)様式は決められているが,承認申請において製品品質を確保するために必要と考えられ,承認後の変更に際して薬事手続きが必要な要素を規定する調和したアプローチはこれまでにはなかった。本ガイドライン(ICH Q12)では,このような要素を「製造及び管理に関するエスタブリッシュトコンディション」(本ガイドラインでは EC とする)と定義している。
 <ECの定義及び規制当局への提出資料における役割>

2.1 ECの定義

 ECは,製品品質を確保するために必要と考えられる法的拘束力のある情報(つまり承認事項)である。したがって,ECs のいかなる変更も薬事手続きを必要とする。ECs規制当局への提出資料には,EC と参考情報が含まれる。参考情報は ECsとはみなされないが,規制当局に対して開発及び製造に関して適度に詳細な情報を提供し,EC及びその変更カテゴリーの選択について根拠を示すものである。
 CMC に関するコミットメントの変更については,本ガイドラインでは扱わないが,各地域における現行の規制及びガイダンスに従うことになる。

2.2 ECの特定と変更管理の実施計画

 この項では,製造工程及び分析法の ECを決めるためのアプローチの概要を記述する。他の EC(容器施栓系の性能等)を決める際にも同様のアプローチを使用することができるが,申請者はその根拠を説明し,規制当局に認められなければならない。EC の範囲は,企業による開発手法及び製品品質に対する潜在的リスクにより異なる。
<製造工程の ECの特定>
 単位操作及びステップの順に変更カテゴリーの特定を決定する(図1)2,3)

 


図1 製造工程パラメータに対する ECs及び関連する変更カテゴリーの特定のためのディシジョンツリー
    (ICH Q12ガイドラインから引用)

 

 Established Conditions (ECs) とは,承認された品目の工程や性能や品質を保証する,申請において定義された,製品の製造方法,施設および装置,ならびに管理戦略の要素の記述であり,ECsを変更する際にはFDAに連絡が必要するが,新しい要求ではない(図2)。なおECsには以下の範囲を含む。
 ・原薬や製剤の製造や試験の施設
 ・バイオ医薬品の出発物質の原料や規格
 ・製造方法(工程管理,工程の順番を含む),装置,工程パラメータと可動範囲
 ・原薬,製剤,中間体,その他の物質の規格及び試験方法
 ・容器及び施栓系,材質,およびそれら規格及び試験方法
 ・ケモメトリックス等の維持方法

図2 Established Conditions (ECs) FDA ガイダンス

 

<ECと変更カテゴリーの決定法>3)
 ECの決定では,製品品質の確保のために管理する必要があるパラメータか否かでECに該当するかを判断する。すなわち,そのパラメータを変更した場合の製品品質への潜在的なリスク評価により,事前承認が必要であるか届出事項のいずれであるかを決定しなければならない。サクラミル原薬のモック4)を題材として検討し,本事例では特定された原薬CQAのうち,不純物の管理をとりあげている。サクラミル製剤に限らず,原薬中の不純物は製剤の安全性に影響を及ぼすため,原薬CQAのなかでも特に重要なものと位置づけられる。
 初期のリスク評価では,類縁物質量(原薬CQA)に影響を及ぼす可能性のある領域の特定を行い,さらなるリスク評価を実施,原薬CQAに影響を及ぼす可能性のある工程パラメータを特定する。そして,前段階で特定した工程パラメータの類縁物質量(原薬CQA)へ実際に影響を及ぼすのかを調査する。その結果,検討した工程パラメータが製品品質の確保のために管理する必要があるパラメータか否かでECに該当するかを判断する。
 さらにその項目について,パラメータを変更した場合の製品品質への潜在的なリスク評価により,事前承認か届け出事項かを決定する。考慮すべき事項として,本検討事例ではEnhanced Approach(より進んだ手法)で開発したサクラミル原薬に当てはめることで,ECとその変更カテゴリーがどのように決定されるかを示している。
@ ECであり事前承認が必要な例
 サクラミル原薬モックでは,Step2の結晶化時の冷却速度と水の量がCPPとして特定された。したがって,これら2種類の工程パラメータは,ECに相当する。これらの工程パラメータは,実験計画法の検討の結果,デザインスペースが確立されている。エタノールの質量に対する水の量のデザインスペースは「20〜35%」である。承認申請書の記載は「エタノールの質量に対して20〜35%の質量に相当する水を加えた後,毎分0.15〜0.5℃で冷却し,18℃で撹拌する」となっている。
 検討の結果,これらは原薬CQAに影響を及ぼす重要工程パラメータ(CPP)であり,検討した範囲(デザインスペース)が不適合境界に近い(高リスク)ことが判明した。つまり,これらの工程パラメータはこれらの範囲を逸脱すると,たちまち原薬CQAを満たさなくなるということである。そのため,製造時の工程パラメータの管理範囲をこのデザインスペースの範囲と同じにしても,品質に対するリスクは大きいままになる。したがって,これらの工程パラメータは事前承認を有するECとなると判断したと解説された。
A ECであり届出となる例
 Step1での結晶化時の水の量がCPPに特定されており,ECに相当する。事例@と異なるのはこの工程パラメータのデザインスペースが,「10〜50%」と比較的広い点である。
 申請書の記載は「エタノールの質量に対して25〜35%の質量に相当する水を加えて冷却し,20℃で撹拌する」となっている。工程パラメータはこのデザインスペースを逸脱すると,原薬CQAは満たさなくなる。しかし,このケースの場合,デザインスペースの範囲が比較的広いため,製造時の管理範囲をデザインスペースに対して十分狭い範囲(25〜35%)で設定することができる。このような管理戦略をとることにより,品質に対する潜在的リスクを低減することができる。このため,変更カテゴリーは事前承認ではなく届出に該当するECにすることができる可能性がある。
B ECでない例(原薬CQAに影響を及ぼさない)
 Step1の結晶化における冷却速度,添加時間,撹拌速度,保持時間,THF濃度,Step2の結晶化時における,添加時間,撹拌速度,水添加までの時間は原薬CQAに影響を及ぼさないことから,ECにならないと判断したという。
 一つの単位操作のアウトプットは次の操作のインプットであるため,EC を検討する際には,製造工程と管理戦略全体の包括的な理解が必要である。
<変更カテゴリー>
 ●  事前承認(Prior Approval; PA)-PAS, Type II, 承認事項一部変更承認申請等
 ●  届出・中リスクの変更 (Notification Moderate; NM)-CBE 30, Type IB, 承認事項軽微変更 届出等
 ●  届出・低リスクの変更 (Notification Low; NL)-AR, Type IA, 承認事項軽微変更届出等
 ● 報告不要 (Not Reported; NR)


3.ICH-Q12 医薬品ライフサイクルマネジメントと変更管理の迅速化

1)PACMP(Post -Approval Change Management Protocol:承認後変更管理実施計画書)とは,「承認申請時に予定されているあるいは想定されている市販後の変更」を指す。
 Step1
 評価方法を予めプロトコールをCTDのR(地域の要求)の項に含めておき,事前審査をうける。
 Step2
 承認後,プロトコールに基づいて変更が行われた場合には,予め事前に含めておいた変更のカテゴリーにより,変更のimplementationが可能となる。
 例えば,欧州ではTypeUからTypeTBでの変更が可能になり,米国ではPASからCBE-30 やCBE-0,さらには年次報告での変更が可能になる場合もある。
(参考)Product Life Cycle Management(PLCM)ドキュメント:変更マネジメントに関わる各種情報を統括した資料(任意):
・管理戦略の概要,ECs,ECを変更する際の変更カテゴリー,PACMPやPost-approval CMCコミットメントなどを含める。

2)PACMPを用いた承認事項の変更制度
 Q12「医薬品のライフサイクルマネジメントガイドライン」ステップ3(2018年1月):
 正式名は,"Technical and Regulatory Considerations for Pharmaceutical Product Lifecycle Management"といい,変更マネジメントの調和を目的としている。
 これは,承認後の変更に関して柔軟な運用がされていない要求される薬事手続き,提出資料が明確化し,承認後の変更の行政手続きに焦点を当てる。

4.承認後変更管理(PACMP)とその進め方
4.1 PACMP の利用

 PACMP の利用には,一般的に以下の2つのステップが必要となる:

 ステップ1:提案する変更,その根拠,リスクマネジメントの活動,変更の影響を評価するために提案する検討及び判定基準,満たす必要があるその他の条件(承認された規格及び試験方法に変更がないことの確認等),当該変更に対して提案する変更カテゴリー,並びにその他の裏付けとなる情報(次項参照)を記載した実施計画書の申請。PACMP 文書はCTDモジュール3.2.R に含めることができる3。この実施計画書は,実行に先立って,規制当局により審査され,承認される。

 ステップ2:実施計画書に示した試験及び検討が実施される。得られた結果/データが実施計画書にある判定基準を満たしており,その他の条件も満たしている場合,MAH は承認された実施計画書に記載されているカテゴリーに従ってこの情報を規制当局に提出し,適宜規制当局による審査を受ける。変更カテゴリーによって,変更の実施前に規制当局の承認が必要な場合と不要な場合がある。実施計画書にある判定基準及び/又はその他の条件(ステップ1 参照)を満たさない場合は,このアプローチを利用して変更を実施することはできず,代わりに現行の規制又はガイダンス及び関連する変更カテゴリーに従うことになる。


 ◆この続きは「月刊PHARMSTAGE」2025年4月号 本誌でご覧ください◆
  月刊PHARMSTAGEのホームページはこちら
  
https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine_pharm%20stage.htm

参考文献

1)「ICH Q12 医薬品のライフサイクルマネジメント ガイドライン(案)」STEP 3,平成29年
2)「原薬ライフサイクルマネジメントにおけるICH Q12の実践と活用例」PHARM TECH JAPAN Vol. 37 No.6 (2021)83(972)
3)第27回日本PDA製薬学会年会(2020年12月8日にオンライン開催)

 

◆この記事の関連記事プレビューはこちら◆

 『ICH Q12の概要と製品ライフサイクルの管理』
  https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine/p_2025_04_P04.htm

 

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